ヘッドは斜めになっている。なぜか?
ナットに適度にテンションがかかっていないといけない。適度にテンションをかけるためには、斜めにするのがいい。順に考えてみよう。
図1について
図1のAのように指板もない、真っすぐのヘッドでは、全く、ナットが弦に当たらない。これでは音合わせもできない。図1のBのように指板があっても基本的に変わらない。ナットにテンションはかからない。Cのように分厚い指板の場合、ナット側のペグに張られた弦では十分なテンションがナットにかかる場合もあり得る。が、ナットから離れた側のペグに張られた弦ではナットに十分なテンションがかからないことがある。Dのようなネックの場合、Cの場合と同じく、ナット側のペグに張られた弦では十分なテンションがナットにかかる場合もあり得る。が、ナットから離れた側のペグに張られた弦ではナットに十分なテンションがかからないことがある。さらにネックとヘッドの接続部分のことを考えないといけない。接続部分の強度を考えると、ある程度の長さが必要になる。しかし接続部分が指板の下にかかると演奏するときに手が当たってしまい演奏しにくい。すると、当然、指板の端よりもさらに先にこの接続部分の分厚い部分が来ることになる。するとどうしてもヘッド部分がより長くなる。またこの場合、ナットから離れた側のペグに張られた弦でナットに十分なテンションをかけるためにはストリングガイドが必要になる。しかし、弦がストリングガイドとナットと触れるということは、その分抵抗が増えるということになる。つまりチューニングが難しくなる。なので、ストリングガイドが必要な構造は、避けられるならば避けるべきであろう。
A、B、Cの図では、ナット側のペグは指板に近すぎる。模式図ではあるが、この場合だと、演奏するとき、手がペグに当たってしまう。もう少し離さないといけない。しかし、Cの場合、離れるほどテンションは下がる。ヘッドの構造とペグの位置などはあらかじめよく考えておかないといけない。
このように考えると、ヘッドが斜めなのが合理的であることがわかる。一般的には15度の角度である。この角度が小さいと図1のAに近づき、テンションが弱くなる。逆に角度が大きいとナットと弦との摩擦が大きくなりすぎ、チューニングがしにくくなる。ほどほどのテンションになるのが、15度ということなのだろう。もちろんペグのシャフトの長さによってはやや変わることはあるだろうが、普通のペグであれば、15度でいいだろう。
図2について
ヘッドを斜めにするためには、木を斜めに切らないといけない。tan15度はほぼ0.27で
ある。尺金(さしがね)さえあれば、簡単に任意の角度の線を引くことができる。1:0.27を利用する。たとえば、10cm:2.7cmを利用する場合で説明する。尺金を図2のように合わせる。Aの部分で10cmの目盛りに合わせる。Bの部分で2.7cmの目盛りに合わせる。そして、図の点線の部分で線を引くと、15度の線が引ける。1:0.27であればいいので、Aの部分20cmでBの部分が5.4cmでもいい。あるいはCの部分が10cmでDの部分が2.7cmでもいい。あるいはCの部分が30cmで、Dの部分が8.1cmでもよい。ただし、誤差のことを考えるとなるべく大きな数字で合わせたほうがいい。10cmよりも30cmで合わせたほうがいい。(10cmで1mmずれると1%のずれである。30cmで1mmずれると、0.33%である。つまり大きな数字で合わせてから線を引いた方がより正確になる。)
A:B=C:D=1:tanθのようにすると任意の角度θで線が引ける。尺金のもっとも基本的な使い方であるが、知っていると、とてもとても便利である。
材に斜めの線を引き、のこぎりで切る。この時、のこぎりの使い方にもコツがいる。ギター作り:失敗と反省と教訓の山の12のその3の記事の中ののこぎりの部分参照。
図3について
ヘッドで、斜めに切ったものを張り付ける場合、図3のAとBが考えられる。Bは良くないだろう。なぜか?指板を貼り付けた図、つまり、CとDを考えるとわかる。Dのようだとヘッド部が弱くなる。接着面の広さを考えるとわかるだろう。Cでは、指板にもネックにも接着されることになるが、Dではネックにのみの接続である。その分、構造的に弱くなる。ことに、ヘッド部はペグを取り付けるために穴をあけたりビスで止めたりする。つまり構造的に弱くなる。以上のようなことから、DよりもCのほうがいいだろう。ただし、Cの構造で失敗したこともある。Aの構造の接着が少しずれて、ヘッド側が少し下側にずれた形になってしまった。そのずれた上に力を加えつつ指板を貼り付けたところ、その部分が、指板が逆反りのような形になり、1,2フレットのあたりを押さえると、ビビるようになってしまった。なので、Aのように貼り付けた後、丁寧に面を整える必要がある。
図4について
さらに斜めに材を貼り付けるときもコツがいる。図3のAのように線を引き、のこぎりで切るとBのようになる。切った後はやすりその他で面をきれいにすることが必要である。そのあと、Cのような向きにしてDのように貼り付けたい。でも単純にD のように貼り付けることはできない。Dのようにするために、Eの矢印のように押さえないといけない。しかし、Eの太い矢印のように押さえると、Fの細い矢印のように動いてしまう。すると、Gのようになってしまう。どんなに気をつけても、Eの太い矢印のように押さえると必然的にGのようになってしまう。また押さえが弱いため、接着面が弱くなってしまう。Eの太い矢印のように押さえなければ、形だけの点では、Dのようにはなっても、接着面が弱いため駄目である。Fの細い矢印方向に動かなくするためには、Hのように支え1や支え2があればいい。その支えを支える板Xが必要になる。この状態でEの太い矢印のように押さえるとよい。あるいは、Iの丸印のような部分を板Xとクランプでしっかり止め、そののちに、Jの太い矢印のように押さえるとよい。すると、Dのような形でしっかりと貼り付けることができる。
図5 について
AとBではAのほうが斜めのテンションが、より大きくナットにかかる。Bではそのようなテンションはかからない。チューニングするとき、Aのほうがその分摩擦が大きくなる。つまりチューニングが合いにくい。狂いやすい。もちろんヘッドの形の好みなどもあるが、ナットにかかるテンションということだけで言えば、Bのほうがよい。ヘッドが両側にある場合はこのように考えるが、片側にある場合も、弦とナットとに無駄な力や角度がかからないようにするのが基本であろう。
ウクレレの場合、普通はCのようだが、マーチンの一部のウクレレでは、なんと、Dのように1弦と4弦をわざと逆にしてあるものもある。自作するならば、このようにわざと1弦と4弦のペグを変えるのもよい。ただし、あらかじめ、開ける孔とペグの形などを考えておかないと、ヘッド内にうまく収まらなかったりすることにもなるから、注意が必要だ。でも、まあ、自作の場合、何とかなるともいえるが。
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